西尾 勝彦

『つかの間のこと』      

森の風雨に耐えかねて
一枚の看板が
すっかり茶色く錆び付いている
文字もほとんど腐食している
「歴史的風土」 
「県が買い入れた土地」
「何人もみだりに立入りを禁ず」
「昭和四十九年三月」などの言葉が
うっすらと読み取れる
森を守るために立てられた看板が
その森に侵蝕され
役割を果たせなくなっている

森は
三十五年の歳月をかけて
看板の存在意義を
すっかり無にしてしまったのだ
自然は
あらゆるものを
確実に
のみこんでゆく
いずれ
この家も
私自身も
のみこまれるだろう
それまでの
つかの間
私は森に暮らしている




『言の葉』         

大切な人が
言葉を拾っている姿を見かけたら
声をかけないでください
その人が
ペンを持ったまま
動かなくても 
だいじょうぶ
その人が
黙り込んで
うつむいていても
だいじょうぶ
その人は
静かに
言葉を
集めています
その人は
素朴で
まっすぐな
言の葉を
探しています
時には
どうしても
大事な一枚が
見つからないこともあります
でも だいじょうぶ
時間という
おだやかな風が
必ず その一枚を
落としてくれるから
必要な言の葉を拾い集めたら
その人は
静かに微笑みます
そうしたら
声をかけてあげてください
きっと
喜びに満ちあふれた
その人の
口元から
あたらしい言の葉が
つぎつぎと 
飛び出し
ひらひらと
空を舞うでしょう
その下で
毎日を過ごせたら
君たちは
だいじょうぶ




『ロケット』        

発想を
ぽーんと
飛ばしてみるといい
と教えてくれた人がいた
何かに行き詰まったときや
新しい考えが必要なときに
AだからBという風に
ありきたりにつなげるのではなくて
AからいきなりQぐらいまで
ぽーんと
思考のロケットを飛ばすんだ
そうすれば
すべて
うまくいく

そんなもんかな
と思い
自分のロケットに火をつけてみた
ところが
ぼーんと
その場で炎上してしまい
思考そのものが消えてしまった

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1972年、京都生まれ、奈良在住。
ひっそり、詩を書いて暮らしている。

2008年7月、「おんさ展」に参加。詩集「大きな鯨」を出品。
2008年12月、詩集「手ぶらの人」。
二冊の詩集は、beyer(大阪玉造)、ガケ書房(京都北白川)で販売中。

2009年8月7日から11日まで、mizuca(京都五条河原町)で個展「雲の晴れ間に」を開催する。

http://hissori2cv.exblog.jp/

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※掲載している写真は展示作品とは異なります